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2009年1月 4日 (日)

当院は医療崩壊のモデルケースとなるか?

とりあえず、年があけました。

昨年は大変な一年でした。4月の仕事引退(FA)移籍、移籍先での人手不足からくる過重労働と世界不況に伴う経営不振。そして、ついに年末(それもクリスマス)に突如同僚(部下)であるA医師がリストラ(解雇?)され、さらなるハードワークとなってしまいました。

しかし、なぜこの時期に首切りをやる?もちろん不況が病院経営に暗い影を落としていることは否めないが、現場の人間を切ることがどれだけ周囲に悪影響を及ぼすことを経営陣は把握しているのでしょうか?疑問が残ります。

同僚Aのリストラの理由が、「遅刻(職務規程からわずか数分遅刻していることが多いが・・・)が多い」、ということと、「患者さんの信頼を著しく損なった」の2点です。

直前に報告がありましたが、私は強行に反対しました。それはいかにも後付の理由であり、その根拠となる事例も非常に悪意のこもったバイアスがかかったものであったからです。

しかし、既に機関決定(経営会議で全会一致)ということで、覆りませんでした。

確かにAはかなり性格がきつく、嫌なものは嫌、ということでかなり以前から契約などで経営陣と対立していました。しかし、その意見は意見として現場の者から見て一理あるところもありましたから、私はずっと間にたって擁護をしてきました。

私はこの8ヶ月間で4回ほど経営陣から呼び出され、「あいつ(A)の我々に対する態度はひどすぎる。Aは態度が悪いくせに働かないからその分あなたの負担が増える、それはあなたにとってもよくないことだ、だからあなたもAを首にすることを承諾してほしい」と、なんどもけしかけられてきました。

それでも私は「経営者に態度を悪く接するのは確かによくないことであるが、Aに対する評価は一部の人間によりかなり悪意のこもったバイアスがかかっている。Aのプラス面は非常に高く評価しており、自分の仕事にとって必要不可欠な人材である。さらに、今Aを首にすることで当院の実状からは、新規募集をかけてももっとよい人材がくる可能性は低い。ポーカーでストレートやフラッシュを狙ってペアを崩して結局役無し(ブタ)になることは、今の民間医局レベルの人材交換では往々にしてあることだから、絶対に待ってほしい」と主張してきました。

さらにAの遅刻の案件に関しても、Aの直属の上司である私は事前に面談しており、経営陣は「それについては厳重注意する、それでも態度を変えないようなら解雇やむなし」というところまで譲歩していたのです。すなわち、「注意して同僚が反抗するなら、解雇通告もあるが、反抗せず行動が改まるのであれば不問」、という条件付だったはずなのです。それで安心していた私が甘かったといわざるを得ません。

確かに、一分でも遅刻は遅刻、医療人の常識はあまりにも一般常識とかけ離れており(麻生さんの言うとおり)、これをよしとするつもりは毛頭ないのですが、一応は口約束をしていたのですから、執行猶予がつくのは当然と思っていました。いきなりの実刑判決はあまりにもむごいようにも思います。口約束なんて平気で破るのは民間企業の資本家の間では当たり前のことなのでしょう。

まあ、そういうことの是非は色々意見もあると思うのでここまでにしますが、一番大事なことは、臨床の中核を担っている人材が突然いなくなることによるしわ寄せ、周囲の人間(コメディカルや患者さん)の動揺、これらによる効率の低下と収益の損失、についてどこまで経営陣がシミュレート出来ているか、ということです。

そして、その後の対応を見ている限り、彼らは全く何も考えていないように思われ、愕然としました。単純な感情でAを首にしただけといわれても仕方ないような対応のお粗末ぶりなのです。

彼らは、リストラ発表の際にそれについてはこちらが決める、と豪語していましたが、勤務日程でAの抜けた穴(外来、残り番、病棟勤務)をどうカバーするかについて、全く思慮を巡らせていなかったのです。

仕方ないので我々常勤医が相談の上、年末分のAの外来を急遽他の常勤で埋め、私も朝6時出勤で病棟をカバーし、その後外来に回る、というスクランブル体制をとることで何とかしました。

しかし、経営陣はひどいことにその後のことについても依然全く何も決めていません。首にするだけしといてその後の穴埋めに関しては事務局に責任をなすりつける方針かもしれません。このままでは正月明けに大混乱が生じることは必定でしょう。そして、結果あちこちが手薄となってミスが発生、スタッフのモチベーションと信頼が更に大きく低下、私自身も疲弊困憊してダウン、となる可能性も十分あり得ます。

この意見は医局会議(経営者はおらず、医師だけで開かれる会)でも出て、「この時期にリストラ」という経営陣のセンスを疑う、という意見でほぼ一致しました。

経営陣は企業の方々ですが、医療現場の実状に関してはあまり詳しくない(自分たちでリサーチしている印象がない)のです。そして、現場を自分で見ることは全くしていないから、このようなずれた決定がなされてしまうのです。

企業人である彼らが求めているのは、昔ながらの「企業への忠誠心」や「根性論」です。

そして、「患者さんのための医療」という受け売りの理念を掲げてはいますが、その本当の意味を理解していない。その結果現場で大きな悲劇が起きているのです。

経営陣は「現場スタッフはただひたすら患者さんのことを思って働くべきだ、そして特に医師にはその気持ちが足りない」、「もっと忠誠心を持て!もっと慈愛の心を持て!」と苦々しく思っていることでしょう。でも、そういう発想が少しずれているのです。

今の医療崩壊の現場では、メディカルスタッフはもはや余裕を失っており、自分のモチベーションと使命感で必死に医療を支えている、というのが実状。それはただ患者さんのためにひたすら、なんていう殊勝な心がけなどではなく、ひとえに他のスタッフのために、という面が大きいと思います。

「患者さんのために」、というのは絶えず心の奥底にはありますが、それ以上に本当は一緒に汗水たらして働いている仲間達(コメディカル、メディカル関係なく)をなんとか支えよう、みんなが路頭に迷わないためになんとか頑張ろう、という気持ちでやっている方が大きいのです。そして、そうやってみんなが頑張った結果が、最終的に患者さんのためになるのであればそれでOKだと思っているのです。

でも、もう限界だ、となれば、立ち去り型サボタージュを起こすのはやむを得ないことなのです。

でも、うちの経営陣は売り上げの数字しか見ておらず、余計なリストラを敢行して結局事態を悪化させ、サボタージュを助長することにしかしていません。患者さんの信頼を損なった、といいますが、モンスターペイシャントがどれだけ増えていて、現場が疲弊している現状を知らない。「患者さんのために(滅私奉公)」というきれいごとが、どれだけ現場でしらけムードを作り出すかを知らない。

こんな状況で忠誠心を持て、などと言ってだれがついて行くというのでしょうか?信頼できない船長が船を座礁させているのに、沈みそうな船から逃げるな、と誰が言えるのでしょうか?

今回の事件は我々医師だけでなく、コメディカルに大きな動揺とモチベーション低下を引き起こしました。

私たち医師や看護師は資格職の強みで「こんなところでやってられっか」と怒りが先に立っていますが、資格職でないコメディカルは「ここはこれから先大丈夫なのだろうか?」という不安が先に立っています。

このままでは、医療崩壊のモデルケースとなることは必定でしょう。

年明けからは連日15時間労働です。残業代などもちろんありませんし、休日も毎回呼び出されるでしょうから休みはなくなりました。

皮肉を言えば、これでようやく普通の病院となった、ということなのでしょう。

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